次の感染症パンデミックを防ぐための緊急要請
2020/06/17
動物と人が感染する「動物由来感染症」の拡大
2019年12月から2020年5月までの間に、200か国以上で37万人以上の人々の命を奪った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。
この病気の正確な起源については、今もまだ確かなことはわかっていませんが、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)などと同じく、動物と人が共通で感染する「動物由来感染症」である可能性が高いと考えられています。
この動物由来感染症は、近年急激に増加しており、過去30年間で発生した人の新しい疾患のうち60~70%が、こうした感染症に由来する病気とされています。
もともと自然界に存在した動物由来感染症の病原体は、どのようにして人の間に広がったのか。
その大きな理由の一つと考えられるのが、多くの野生動物が生息する森林環境などの破壊です。
農地や牧草地の開発によって、20世紀以降に失われた森林面積は、およそ178万平方キロ。
特に、1945年から2005年の間に世界で引き起こされた、こうした土地利用の変化は、動物由来感染症のほぼ半分に関係しているともいわれています。
さらに、病原体を持つ動物の移動や利用、つまり取引や消費も、国境を越え、動物由来感染症を広げる大きな原因となってきました。
とりわけ、検疫などを受けることなく行なわれる違法取引(密輸)については、世界でどのような生物が、どれくらいの数かもわからないまま、今も続いていると考えられています。当然、これらの動物が保有している病原体についても、定かな情報はありません。
こうした森林破壊や、野生生物取引の問題は今も続いています。
つまりこれからも、新型コロナウイルスのような感染症や未知の病気が、世界で大規模に発生する危険があるということです。
人と自然を守るための緊急の呼びかけ
2020年6月17日、WWFはこの問題をあらためて指摘する報告書『COVID 19: urgent call to protect people and nature (新型コロナ危機:人と自然を守るための緊急要請)』を発表しました。
この報告書で、WWFは次の点を、動物由来感染症の発生を促進する要因として挙げています。
- 高いリスクを伴った野生生物の取引と消費
- 森林破壊を引き起こす土地の転換と利用の変化
- 非持続可能な形での農業と畜産の拡大
また、これらの問題の解決のため、緊急かつ国際的な対応の必要性を、各国政府、企業・業界、市民社会組織、そして一般市民のそれぞれに訴えました。
各国政府に対する呼びかけ
- リスクの高い野生生物取引を停止し、違法な野生生物取引なくすための取締りを強化すること。
- 森林破壊をくいとめ、紙や木材、パーム油などの農産物の生産が、土地利用の転換を引き起こさないようにする法律を整備し、政策を実行すること。
- 世界の生物多様性保全に向けた、2020年以降の新しい、より意欲的な目標に合意し、そのための適切な資金を提供すること。
- 野生生物と土地利用の転換を決定する際に、ワンヘルス・アプローチ(同じ環境を共有する、人間と動物の健康を、一つのものとする考え)を組み込むこと。
- 人と自然の新たな関係を結び直し、生物多様性の減少を食い止め、人類益と地球益のために、自然を回復基調へと導くことが実現できるように、次の3つの2030年目標に国際合意すること
- 自然生態系を保護し回復させる目標
- 生物種と生物多様性を緊急保護する目標
- 生産と消費のフットプリント(環境負荷)を半減する目標
- 新型コロナウイルスの影響からの経済回復計画の設計にあたり、環境に配慮した移行を確実に行ない、持続可能で回復力のあるビジネスモデルへの投資を促進すること。
- 脆弱な地域共同体(コミュニティ)が、持続可能かつ柔軟な方法で、先住民の土地や水利用の権利を承認し、食料安全保障と生計を保護できるよう、支援すること。
企業と業界に対する呼びかけ
- 現状および新型コロナウイルスによる危機の収束後、あらゆる自主的な環境対策を実施し、強化すること。
- 持続可能な生産を促進すること。製品や原料の供給元までさかのぼれるトレーサビリティを確保し、消費者に持続可能な食生活の選択を促すこと。食品サプライチェーンで生じる環境フットプリントの削減につながる、信頼のあるサービスを提供すること。
- すべての農産物の生産と消費が、森林と生態系の破壊を引き起こさないよう保証する企業方針とルールを順守すること。
- すべてのビジネスおよび資金調達の決定にあたり、特に世界的な健康にとって脅威となるリスクへの対応として、ワンヘルス・アプローチを組み入れること。
- 環境と社会に良い未来をもたらす、革新的な金融メカニズムとソリューションを開発し、実装すること。
市民社会組織に対する呼びかけ
- 危機の影響を直接受けている、脆弱な地域社会とそれを取り巻く環境の改善をサポートし、その人々が新型コロナウイルスからの復興活動に、適切に参加できるようにすること。
- 政府や産業界と協力して、違法でリスクの高い野生動物の食用を減らし、食料の供給や消費を、持続可能なものに変革する手段を開発すること。
- 政府や産業界と協力して、違法でリスクの高い野生動物の食用を減らし、食料の供給や消費を、持続可能なものに変革する手段を開発すること。
市民に対する呼びかけ
- 政府との協力のもと、自然と人のための「新たな関係」、すなわち、自然環境を危機に追い込んでいる現代の人の行動を変え、人間の健康、福祉、生活を守る新たな進路を目指す約束をすること。そのために生態系を保全し、気候変動(地球温暖化)への取り組みを強化すること。
- 業界に対し、社会と環境への悪影響を減らすよう、リーダーシップの発揮を要請すること。
- 暮らしの中で、より持続可能な選択を行ない、食生活と消費習慣を変えること。
このすべてが実施されたとしても、あらゆる病気を予測し、予防することはできません。
しかし今、自然と人との関係を見直し、あらためることは、将来の大規模な感染症の拡大(パンデミック)のリスクを減らす行動となります。
そしてWWFは、2020年9月に予定されている国連の生物多様性サミットが、世界のリーダーたちによるこうした行動を、大きく加速させる重要な機会になると考えています。
自然との関係を変革し、地球の持続可能な未来を守る機会を逃すことなく、今、行動することを、WWFは呼びかけていきます。
報告書
『COVID 19: urgent call to protect people and nature (新型コロナ危機:人と自然を守るための緊急要請)』(PDF形式)